第48章 《閑話》とあるアイドルの誕生日
『あの時から私は、貴方が気になっていました』
「えっ!?気に、って」
『龍、さっき自分でも言っていたでしょう。
自分は、甘やかされた経験があまりない と。
いつも思っていました。貴方は、甘やかされる側ではなく 甘やかす側。寄り掛かかるより、寄り掛かられる側だと。
龍を見ていると、不安になるんですよ。他人の荷物をどんどん抱え込んだ貴方が、いつか突然 ポッキリいってしまうのではないかと』
春人が俺に対して抱いた “ 気になる ” は、俺が期待していたのとは違ったようだ。
少しだけガッカリした。それから、ガッカリした自分に驚いた。俺は彼に、どんな気持ちを抱いていて欲しかったのだろう。
しかし、それをゆっくり考えるのは今度だ。今は、春人の気持ちにしっかり答えないと。
「…物心ついた時から、こう考えるのが癖になってた。
“ 俺がしっかりしなくちゃ ”
性格的なこともあるんだろうけどね。でも俺は長男だから。弟達を、守らないと って」
『それは…TRIGGERの龍になってからも、大して変わらなかった?』
「そう!そうなんだよ!TRIGGER結成時の天と楽は それはもう馬が合わなくて。チームワークなんて最初は全くなかったんだから。
家族と暮らしてた時以上に思ったよ。
“ 俺がしっかりしなくちゃ ” って」
『ふふ。その時のことを思うと、今は随分とマシになったんですかね』
「あはは!そうだね。あ、でも 春人くんが居ないところでは、天と楽はいつも喧嘩ばっかりしてるんだ」
『私が居ても居なくても、あの2人はやり合ってるでしょう』
「それもそうだね」
冗談めかして言うと、彼は笑った。そんな笑顔を間近で見ていたら、少しだけ頬が熱を持つ。
でも、暗いからきっと春人には気付かれていないだろう。
懐かしい、潮の香りを含んだ風が そんな熱をそっと優しく冷やしてくれた。