第48章 《閑話》とあるアイドルの誕生日
『やはり沖縄でも、夜は少し冷えますね』
「そうだね。特に海の近くは」
『これ、どうぞ。病み上がりですから』
そう言って、手に持っていたカーディガンを差し出してくれた。
「春人くんは、寒くないの?」
『私は平気ですから』
「でも、俺が借りるわけには」
俺の胸には、言い知れぬ罪悪感が生まれていた。何故か、思ったのだ。
“ 本当ならこういう時は、俺が自分の上着を差し出すべきだろう ”
と。
不思議だった。べつに、春人が俺に上着を貸しても、俺が春人に上着を貸しても。大した違いなどないはずなのに。
『貴方の為に持って来たので』
「う、うん。分かったよ。じゃあ ありがたく借りるね」
『ふ、変な龍』
彼は、首を傾げる俺を見て 小さく微笑んだ。
砂浜を歩き慣れている俺に対して、春人は少し苦戦しているようだった。サラサラの砂に足を取られ、歩き方がぎこちない。
『……』厚底が辛い
「春人くん、平気?少し休もうか」
『いえ。ちょうど良い筋トレになってますよ』
「ははっ、たしかにそうかも。いつもは使わない筋肉使うよな!」
でも、俺は少しだけ歩くペースを落とした。
真っ黒な海。月の光を吸った波が、その黒の上を滑っていた。遠くから近くへ、ザザ という音が耳に優しい。
そんな夜の海を見つめながら、春人は口を開いた。
『龍。さきほどの話の、続きをしても良いですか?』
「え、続き?」
『……頭を撫でるのがうんぬん、の続きですよ』
「勿論!
あ、もしかして春人くん…前も俺を撫でたことあるって認めるの?」
『あぁもう、認めますよ。しっかり覚えてますよ。降参するんで私の話聞いて下さい』