第48章 《閑話》とあるアイドルの誕生日
『…なんて、綺麗。
この景色を、そんなふうにしか形容出来ない自分が 嫌になりますね』
「はは。そうかな?俺はとても春人くんらしい感想だと思うけど」
食い入るように沈む行く太陽を見つめていた彼が、俺と視線を合わせる。じっと、今度はこちらに集中した。
「??
え…と、春人、くん?」
『龍…』
スローモーションのように、腕がこちらへと伸びる。そして、その指先がついに頬に触れる。
一体、いま自分の身に何が起こっているのか理解出来なくて。頭がぼーっとする。頬に触れた指先に 触れようとした、その時。春人が言った。
『貴方、熱あるでしょ』
「………え?」
遠慮がちに頬に置かれていた手が、今度は額に移動する。
「そういえば、ちょっとだけ熱っぽいかな。あ、でも多分あるとしても微熱程度だと思」
『話は後で聞きます。とりあえず、寝る。熱計る』
そう言うと、俺を強引にベットの方へと引きずった。そしてポケットから取り出した体温計を手渡して来た。
「それ、いつも持ち歩いてるの?」
『そんな事はどうでも良いでしょう。飲み物買って来ます。その間に、寝やすい格好に着替えて体温を測っておくんですよ』
どうやら、言う通りにする他ないらしい。彼の背中を見送ってから、言葉通りにして横になる。
脇に挟んだ体温計が告げたのは、37.1度。やはり微熱だった。
「…どうして、熱があるって分かったんだろう。自分ですら、気付いてなかったのになぁ」
言ってから目を瞑ると、意外と睡魔が早い段階でやって来た。