第48章 《閑話》とあるアイドルの誕生日
本当に、良い部屋を用意してくれたと思う。
荷物を置いて、広い室内を見渡す。すると、嫌でも大きな窓が目に入った。カーテンは閉められているが、その隙間からは 橙の眩しい光が溢れている。
両側にカーテンを引けば、きっと素晴らしい景色が広がっているのだろう。そんな景色を1人で見てしまうのは、なんだか勿体無い気がして。
春人と一緒に見たい。なんて思ってしまった俺は、少し子供っぽいだろうか?
トントン、と 短めに扉をノックされる。
ドアを開けると、そこには春人が立っていた。
「春人くん、もう見た?サンセット」
『いえ。まだですよ。
…どうせなら、貴方と一緒にと思いまして。ふふ、こんなふうに考えてしまうなんて。少し子供っぽいでしょうか』
「……」
自分と全く同じ事を考えていたのだと知って、嬉しさのあまり言葉に詰まる。
思わず春人に駆け寄って、その体を抱き締めてしまいたい。
そんなふうに思ってしまう俺は…どこか、おかしいのかもしれない。
『龍?…え?もしかして、引きました?』
「あっ、ごめん!引かないよ!全然!」
俺がやっと そう言うと、春人は ほっとしたように目を細めた。
2人で窓際の前に並び立つ。それから、俺が右のカーテンを。春人は左のカーテンを。
勢い良く、シャーと引いた。
視界いっぱいに飛び込んでくる、オーシャンビュー。目を突き刺すような眩い光。
故郷の緑は、こんなにも瑞々しかったろうか。
太陽の光は、こんなにも眩しかったろうか。
海の輝きは、こんなにも美しかったろうか。
俺の目に映る世界が、こんなふうに変わったのは 君に出逢ってから。なんて言ったら、君はどんな顔をするのかな。
美しい景色に目を奪われている君を、今すぐに奪ってしまいたい。
こんなふうに思ってしまう俺は…やっぱり どこか、おかしいのだろう。