第48章 《閑話》とあるアイドルの誕生日
『お嬢さん』
その時。天から助けが舞い降りた。
春人は、連絡先が書かれているであろうメモを掬い上げた。そして、改めて彼女に突き返す。
『申し訳ありません。うちの十は、今からホテルの一室で取材の予定がありまして。宿泊は別のホテルなんです。
ご期待に添えず、心苦しいですが どうかお引き取りを』
意気消沈する彼女は、小さく頷いた。
春人はそれを確認して、エレベーターへ歩き出す。そして、こちらを振り返って俺を見た。早く付いて来いという意味だろう。
足早で、彼の後を追う。最後に、彼女を振り返って告げる。
「ごめんね。でも、これからも俺のこと、応援してくれると嬉しいなあ!」
「!!
は、はい!勿論です!ずっと、推し続けますから!」
エレベーターに乗り込んだ俺達。春人は、15階のボタンを押して言う。
『部屋は27階だそうです。最上階の部屋を用意して下さるなんて、お父様に気を使わせてしまったのでしょうか』
「え?27…」
ならばどうして、春人は15階のボタンを押したのだろう。そう質問する前に、エレベーターがそこへ到着する方が早かった。
15階で一度エレベーターを降りる。春人はすぐさま隣のエレベーターの前へ移動。そして、上ボタンを押した。
『…念の為です。彼女が、貴方の後を尾けないとも限らないでしょう。私達が乗ったエレベーターが何階に止まるか、1階で電光板を見ているかもしれない』
「相変わらず、隙がないなぁ。春人くんは」
要は、カモフラージュの為に15階で降りたのだ。そして俺達は、今度こそ27階へ向かうのだった。