第48章 《閑話》とあるアイドルの誕生日
「もう少ししたら、部屋からサンセットが見えるんじゃないかな。今日は天気が良いから、絶対に綺麗に見えると思うな」
『いいですね。まだ夕食には早いですし、一度部屋に行きましょう。チェックインをしてくるので、少し待っていて下さい』
その言葉に素直に甘える。俺はなるべく目立たないよう、ラウンジのソファではなく、壁際に向かった。
壁に背を預けて、マスクを上げる。そして携帯を取り出し、現時刻を確認。
「あの…TRIGGERの、龍之介さん ですか?」
「え」
顔を上げると、そこにはハタチそこそこに見える女性が立っていた。
知らない顔だ。ファンの人…だろうか?
「うん。そうだよ」
「わぁ、やっぱり!私、TRIGGER大好きで、特に龍之介さん推しなんです!このホテルも、お父様が経営されてるって知ったから泊まりに来てっ」
俺が頷くと、彼女は捲し立てるように喋り出した。まずいな、あんまり目立ちたくはないのだが…
「あ、そっか。いつも応援ありがとう」
「こちらこそ、いつもカッコ良い姿を見せてくれて ありがとうございます!
あの…龍之介さんも、このホテルにお泊まりなんですか?」
「う、うん?えっと…」
どう答えたら良いか、正直迷っていた。もし、イエスと答えたら…多分 面倒なことになる。俺のカンが、そう告げていたから。
「あの…!もしそうならっ、お時間がある時に…お部屋に呼んでもらえませんか!?」
「えぇ!?」
「大丈夫です!私、口が堅いので絶対に誰にも漏らしませんし…、その…りゅ、龍之介さんになら、私 何されても良いので…」
「ちょ、ちょっと!」
イエスもノーも言っていないのに、すでに面倒な事になってしまった。
彼女が差し出したメモ用紙を、ぐいぐいと押し返しながら打開策を考える。