第48章 《閑話》とあるアイドルの誕生日
しばらく海辺で遊んだ後、俺達はホテルへ移動した。ここは、俺の父親が経営するホテル。
俺も何度か泊まった事があるけれど、春人と一緒に来るのは これが初めてだ。
『素敵なロビーですね。こんなホテルを経営してるお父様は、人格者ですね』
「褒め過ぎじゃないかな?まぁでも、凄い人だな…とは、俺も思うよ」
その時。ロビーの一角の人混みが目に入る。楽しげな人達の声も聞こえて来て、俺達は顔を見合わせる。
「お祭りとかかな?俺も行ってみたいな」
『どうやら、催事のようですね。少し覗いてみましょう』
帽子をより深く被り、特設コーナーへと移動した。そこでは、沖縄物産展をやっていた。
観光客向けの、お土産がたくさん置かれている。知名度の高い紫芋タルトやちんすこう、黒糖や島とうがらしが、所狭しと並んでいた。
「春人くん。試食もあるよ?食べてみる?」
『はい。私、紫芋タルト好きなんですよ。お土産に貰うと嬉しいですよね』
試食用に小さくカットされたタルトを 小さなトングで摘んだ。それを、春人の手の平の上に乗せる。それから自分の手にも置いた。
『この自然な甘さが、いいですよね』
「うん!美味しい。
あ、こんなのもあるよ」
俺は、隣にあったゴーヤチップスも彼の手に乗せた。それを、じっと見つめて春人は呟く。
『ゴーヤ、何気に私 初めてです』
「そうなんだ!美味しいよ、ゴーヤ。チップスも手軽でいいけど、やっぱりゴーヤと言ったらチャンプルーかな?俺の得意料理なんだ!
俺特製ゴーヤチャンプルー、君にも食べてほしいね」
そう言って、にっこりと微笑んだ。
その直後、はっと思い至る。そういえば、春人はピーマンが嫌いだった。もしかすると、苦い食べ物全般が苦手なのでは?