第48章 《閑話》とあるアイドルの誕生日
「……春人くん?えっと、これは…」
スーツ姿の彼と、水着の俺。2人して波の届かない海辺にしゃがみ込んでいた。
そして、目の前にいる春人に問い掛ける。
『見て分かりませんか?
これは、サグラダファミリアです』
「分かるから凄いんだよなぁ」
春人が熱心に作り上げたのは、砂で出来たサグラダファミリア。さきほど手にしていたスコップとバケツで作り上げたのだが、これはもう砂遊びの域を超えている。
「あはは。君はいつでも、何事にも本気だよね」
『手先は器用なんです』
仕事も、遊びも常に全力。そんな彼の姿勢が、俺は大好きだった。
「あ、そうだ。これ」
プレゼント。俺はそう言って、さっき捕まえたヤドカリを サグラダファミリアの側に放した。
それを見た瞬間、春人の顔はキラキラ輝いた。
『おお!住民を連れて来てくれたんですね。なら、この子の事を考えて 少し設計を変える必要がありそうですね。どうせなら、中を空洞にして実際に住めるように…あぁでも、そうなると今度は強度が…』
「ははっ。ほんと、可愛いなぁ」
『はい。小さくて、可愛いです』
つい口を突いて出てしまった “ 可愛い ” という言葉。それは勿論、ヤドカリに向けたものではない。
しかし、なんだか気恥ずかしくて言えなかった。
“ 今のは、君に向けて言ったんだよ ”
なんて。