第48章 《閑話》とあるアイドルの誕生日
沖縄を堪能する上で、海水浴はやはり欠かせないだろう。ちょうど俺は水着姿だったし、撮影の為に海岸の一画を貸し切っていた。
職権乱用の感も否めないが、少しの間だけ大目に見てもらおう。
「春人くん、泳ぐの好き?」
『はい。水は好きです』
「じゃあ、一緒に海水浴しよう!君も着替えておいでよ」
『は…!あ、いえ…。やっぱり、私はいいです』
春人は、一度は ぱっと顔を明るくしたものの。すぐに俯いてしまった。もしかすると、何か都合が悪いのかもしれない。
「海…嫌だった?」
『嫌ではないです!でも、その…水着は、ほら。す、すね毛 とか。色々と、問題が』
(足がツルツルだと変だよなぁ)
「すね毛…?それって何か、問題が?
俺、割と生えちゃってると思うけど…」
『あ、いえ。べつに生えてる分には何も問題ないですよ?上手く説明出来ないんですけど、私が水着になるのがマズイと言うか…』
春人は、沖縄の海だというのに いつものスーツ姿だ。そんな通常運転の彼は、人差し指同士を突き合わせてモジモジしている。
「じゃあ、海水浴以外のことをしようか」
『しかし…龍は海に入りたかったのでは?』
「春人くんとなら、何しても楽しいから。べつに海水浴にこだわらないよ」
本心だった。
俺がそう言うと、彼は少し照れたように微笑むのだった。
『やっぱり、貴方は優しいですね。
お言葉に甘えて、べつのことをしましょう。私、やってみたいことがあるんです!』
「お!いいねぇ!何をしようか?」
春人は何も答えない。その代わり、左手にスコップ。右手にバケツを持って笑った。