第47章 《閑話》とあるアイドルの休日
『お手洗い、お借りしても?』
「おう。あっちだ」
『なんてアバウトな説明ですか…』
「何となくの雰囲気で分かんだろ?」
『まぁ、いいですけど』
リビングから立ち去る春人の背中を見送ってから、俺は買って来た食材を冷蔵庫にしまっていく。
人参や玉ねぎは、常温でいいだろう。そういえば、耐熱皿はどこへしまい込んだんだったか。
そんなふうに、頭を整理していた時だった。俺の第六感が騒めきだしたのは。
トイレの扉の側には、風呂場へと続く扉もある。風呂場の扉を潜ったらそこは、脱衣所に繋がっている。
そして脱衣所には…手洗いしたパンツがある!!
「っ、俺!干しっぱなしじゃねぇか!」
食材を放り出して、春人の背中を追い掛ける。どうか、一撃でトイレのドアを引き当てていてくれ!俺はお前のカンを信じてる!
そんな思いを胸に、廊下をドカドカといく。
「おいっ!春人…」
『……』
春人は、脱衣所のドアを開けた瞬間の姿勢のまま、立ち尽くしていた。ハンガーにぶら下がる、まだ湿ったパンツを見つめて。
『………っあ』察し
明らかに不自然。強い存在感を放つ、手洗いされた男物のパンツ。どんな悲劇が俺を襲ったのか、想像に容易かったことだろう。
春人は全てを察したようだった。
「あ……って、せめて、もっと、適切な言葉が、あるだろうがっ」
『……どんまい?』
「っく!せめて、もういっその事、笑ってくれ」
『いや、これはさすがに…笑えません。ごめんなさい』
「謝るな!」
恥ずかしさと気まずさのあまり、俺はその場に膝を折ってしゃがみ込む。それから、顔を下に向けて髪の毛をぐしゃぐしゃと掻き乱した。