第47章 《閑話》とあるアイドルの休日
『先生っ…驚くくらい、痛くなかったれす!貴方は天才れす、本当にこの度は…私の命を救っていたらき、ありがとうございまひた』
「…麻酔は、1時間ほどで切れますので そしたら普通に喋れるようになりますからねぇ」
『今後は3ヶ月に1度、貴方に歯を見せに来ると誓いまひょう』
春人に手を握られた医師は、引き気味で頷いた。おそらく、彼の歯科医人生でここまで感謝される事は稀ではないだろうか。
待合室に戻った春人は、少年春人に語って聞かせた。ここの先生は天才だから全く心配いらない。全然痛くなかったと。
その言葉を聞き、少年と その母親は笑顔で診察室に入って行った。
それから さきほどの誓いの通り、定期健診を3ヶ月後に予約してから歯医者を後にしたのだった。
『楽、今日はお付き合いいたらき、ありがとうございまひた』
「とりあえず、麻酔切れるまで喋るな。面白いから」
『何かお礼をしなくてはいけまへんね』
俺の言葉は無視をして、春人はまた 麻酔で緩くなった口を開いた。
『美味しい蕎麦ツユの研究でもしまふ?』
「俺が何に喜びを見出すと思ってんだ!お前は。
お礼とか、べつにいいから。昨日のお返しだと思っとけよ」
『いえ、アイドルがプロデューサーに迷惑をかけるのは当たり前れす。でも、プロデューサーがアイドルの貴重な休日を奪うのは 当たり前じゃないのれすよ』
愉快な口調で、春人はキリっと言い切った。引き下がる様子ない彼を見て、俺は頭をひねる。
「じゃあ、今から俺に付き合えよ。まだ休日の時間は残ってる」
『ええ。なんなりと』
「……夜飯。何か凝ったもん作ろうぜ。あんたが料理するのを見て、俺も久しぶりに何か作りたくなった」
『ふふ。いいれしょう。詳細なレシピさえあれば、私は最強れすよ』
「だから、その酔っ払いみたいな口調で格好付けられても、面白いだけだっての…」
俺達は、その足で食材を求めてデパ地下へと赴くのだった。