第47章 《閑話》とあるアイドルの休日
「信じられねぇ。子供に何聞かせてんだ」
『私は事実を述べただけです。しっかりと現実を教えてあげないと、騙し討ちは可哀想でしょう』
「子供騙して歯医者に連れてくのは親の勤めなんだよ」
『な、なんて無慈悲な』
と、その時だ。
中崎さん、と お呼びがかかったのは。
ようやく少し休憩出来る。ここに来てから、予想以上に体力を使っていた俺は 安堵した。
春人に向け、2回 手を払って言う。
「ほら、行ってこい。頑張ってこいよ」
『え……まさか貴方、私に1人で行けと…っ!』
「え……まさかお前、俺に着いて来いと…っ?」
着いて来た。
『楽。もし私が死んでも、アイドルを辞めないで下さいね。
そしてこれは遺言だと思ってもらって結構です。貴方はリーダーとしてTRIGGERを最強のトップアイドルに押し上げて下さい…っ』
「医者の前で、死ぬとか遺言とか言うな。っつーか歯医者では死なねぇから安心しろ」
大の男を、大の男が励ます姿を、医者は冷たい目で見た。しかし、どんな客相手だろうと仕事放棄する訳にはいかないのだろう。
さきほど撮ったばかりのレントゲン写真を見ながら告げた。
「うん。やっぱり虫歯ですねぇ」
『そんな馬鹿な!』
「馬鹿はあんただ。大人しく座ってろ」
椅子から立ち上がりそうになる春人に、ぴしゃりと言い放つ。
すると、すぐ医師が説明をしてくれる。
「ここね、この白くなってるところ。虫歯って、レントゲンでは白く映るから。ほら、中が真っ白でしょぉ」
語尾のねちっこい話し方が特徴的な医師は、患部が映った箇所を指差した。
「これは神経までいっちゃってるかもねぇ」
『そ、そんな…!』
「自然痛がある時点で、神経やられてる事が多いよぉ?」
「春人…。諦めろ」
まるで、余命宣告でもされたかのような春人。俺は、出来る限り優しく声を掛けた。