第47章 《閑話》とあるアイドルの休日
『ときに、春人君』
「なぁに?」
『貴方は、歯医者で治療を受けた事があるのですか?』
子供相手にまで、この硬い喋り方を徹底するつもりらしい。まぁ少年春人の方は、話し方など気にしていないようだが。
「えっとね、きのう レントゲン?っていうのをとったんだ!ぜんぜんいたくなかった!だから、ボクぜんぜんこわくないよ!」えへん
「おぉ、偉いなぁ。こっちの春人は。ははっ、お前も見習えよ」
『…そうですか。ではまだ、痛いことはされていないのですね』
「まだとか言うな」
春人はソファから腰を上げ、少年の前で片膝を突いた。それから肩に手を添えて、真顔で語り始める。
『痛くない訳が、ないんですよ。だって確立された治療法が、そもそも痛い事しかしないんですから。
知っていますか…!まず、麻酔をかける為に注射をするんです。どこにすると思います?なんと、歯茎ですよ。歯茎です。いいですか?想像してみてください。腕に針を刺すのでさえ痛いというのに、この柔らかい歯茎ですよ?そんなの痛いに決まってる!
地獄はまだ続きます。今度はね、削るんですよ。歯を。歯は骨と同じです。人体の一部である その硬い骨を、ドリルで削り取るんです。強引に!
そして、さらに炎症が神経にまで及んでいる場合は、神経を巻き取るんです!まるで、フォークにパスタを絡めてみたいにして神経を根こそぎ巻き取るん』
「もうやめろ!頼むから!!」
少年は、虚ろな顔で春人の語りを聞いていた。いや、もしかすると耳には入っていても、心が拒絶しているかもしれない。そんな表情をしている。
そして近くで聞いていた母親は、愛想笑いすら浮かべられずに固まっていたのは 言うまでもない。