第47章 《閑話》とあるアイドルの休日
「は、離れろって…」
『??
どうかしましたか、楽?顔が赤』
「おねぇちゃん、はいしゃさんが こわいの?」
俺と春人は、声のした方を同時に見た。
いつの間にか、俺達の前には幼稚園生くらいの男の子が立っていた。
「は、はは!笑えるな、あんた女に間違えられてるぜ」
『…少年。私は、お姉さんではなくお兄さんですよ』
諭すように、春人は人差し指を立てて告げた。その時、受付の方向から女性が駆け寄ってくる。
おそらくは、この子の母親だろう。
「こらっ 春人!駄目でしょう、勝手にいなくなったら!」
母親と思しき女性は、焦ったように言った。
「『ごめんなさい』」
少年と春人…。いや、2人の春人は、母親に向かって頭を下げた。
きょとんとする母親に、俺が代わって説明する。
「こいつの名前も、春人なんですよ」
「まぁ、そうだったんですね!」
「あんたも、なに勢いで謝ってんだ」
『いや、つい』
全員が このややこしい事情を理解したところで、少年春人が口を開いた。
「おねぇちゃんは、どうして はいしゃさんがこわいの?」
『お兄さんです。歯医者を怖いと思わない人間は、どこかのネジが飛んでいると私は思っています』
「おい。子供に何言ってんだ」
母親は、ご迷惑でしょう。と言って少年春人の手を引こうとするが、俺はそれを制止した。
「全然 迷惑なんかじゃないですよ。むしろ、こいつの緊張が少しは解けるかもしれないんで 話してやってください」