第47章 《閑話》とあるアイドルの休日
「まぁ 歯医者に付き添いって聞いたら、子供に着いて来たって思うよな。
でも、俺が着いて来たのは、あいつにです」
俺が指差した方向には、青い顔をして今にも倒れそうな春人がいる。受付の女性は、そんな春人に視線をやり しっかりと顔を確認した。
そして、保険証をじっと見つめる。
不思議なことに、彼女の視線は 春人と保険証とを何度も何度も往復した。
「えっと…患者さんは、あの金髪の方で間違いないですよね?」
「あぁ」
「そうですか…」
(保険証には、女性ってあるんだけど。まぁいいか!細かいことは)
やがて顔を上げた女性は、こちらにバインダーを手渡した。問診票だと告げられ、座って書いてくるよう指示を受ける。そして、ペンも一緒に受け取った。
「ほら。これ書けってよ」
『楽が、書いて下さい…』
「嘘だろ。どれだけ弱ってるんだ、お前」
うんざりはした。だがしかし、昨夜は俺が春人に迷惑をかけた。今日はその逆で、こちらが面倒をみてやる番なのかもしれないと思い直した。
「分かった。書いてやるから、さっさと設問に答えろよ」
俺がそう言うと、春人は俯けていた顔をなんとか持ち上げ 問いに答えていく。
年齢、誕生日、酒やタバコの摂取量、痛む箇所。
そして設問は最終局面へ。
『いま現在、妊娠はしていません』
「それは答えなくても分かってる!」
春人は真面目な顔をして、男性は記入する必要のないところにまで答えた。
「はぁ。死にそうな顔をしているくせに、冗談は言えるのかよ」
全ての記入が終わったところで、俺は再び受付へと赴いた。