第47章 《閑話》とあるアイドルの休日
『てっきり私は、貴方が二日酔いで地獄の苦しみを味わっているだろうと思っていたのですが』
そう言って春人は、テーブルの上に 持っていた袋を置いた。
中から取り出したのは、スポーツドリンクに、米と卵とネギに、あとフルーツ各種。どうやら、俺の世話を焼いてくれる気だったらしい。
世話なら もう昨日、散々焼かせただろうに。オフの日を使ってまでここへやって来たこいつは、本当にお人好しだと思った。
「でも、腹減ったな…。俺さっき起きたばっかだから、朝飯も食ってねぇんだよ」
『お粥でも と思っていたので、用意して来た材料が乏しいんですよね』
「言っとくけど、うちの冷蔵庫に食材はないぞ」
最近は特に多忙を極めていた為、自炊する時間も取れなかったのだ。したがって、冷蔵庫の中身は ほぼ空だ。
『知ってますよ。昨日 見ましたから』
「あぁ。酒とツマミしかない」
『まぁ、とりあえず炊飯器借りていいです?』
快諾すると、春人はキッチンへと向かった。それから、何を作るつもりなのか 食材を切り始めた。
何か手伝おうかと申し出てみたが、座っていてくれと言われたので 大人しく待っていることにした。
リビングでテレビを見ながら しばらく待つと、目の前にはチャーハンとカットフルーツが並んだ。
「…肉なんか、冷蔵庫にあったか?それとも、あんたが持って来たのか」
俺は、チャーハンに入っていた肉を見て言う。
『それ、冷蔵庫にあった ツマミのサラミです』
「聞くんじゃなかった」サラミチャーハン…
『サラミもまぁ、肉の一種でしょう?』
いただきますと呟いてから、春人は匙を口へ運んだ。
俺も倣って、手を合わせてから料理に手を付ける。
「お…意外と美味い」
『はは。でしょう』
俺は、生まれて初めて食べる火の通ったサラミの味に、少しだけ感動した。