第47章 《閑話》とあるアイドルの休日
「………ん?」
見慣れた天井と、自分の情けない寝起きの声で、全てを悟る。
あぁ、あれは、幸せな夢だったのだと。
腕の中にあったはずの温もりは、当然ながらどこにもない。手を伸ばしても、触れるのは冷たいシーツの感触のみ。
そして、冷たいのは シーツだけではなかった。
「おい…嘘だろ」
下半身に纏わりつく、べっとりとした感触の 冷たい不快感。
「……最悪だ」
この言葉以外に、今の状況を適切に表せる単語はなかった。
べつに自分のことを、トップアイドルだから どうとか。抱かれたい男一位になったから どうとか。そんな事を一切 傘に着るつもりはない。
が…。
その名誉あるランキングに選んでもらった男が、起き抜けにパンツを洗っている光景は、ちょっと ない。流石に ない。
「はぁ。やっちまった…
いや違うか。久しく “ やってなかったから ” 今こうなってんだよ。うん」
こんなふうに、上手い事でも言ってないと 心が壊れてしまいそうだった。
パンツを手洗いしたついでに、そのままシャワーを浴びようと考える。それをハンガーにかけて脱衣所に干してから、服を脱いで浴室に足を踏み入れた。
熱めの湯を浴びていたら、昨日の記憶が曖昧なのに気が付いた。
たしか、天と龍之介。それから春人とスタッフ達が、打ち上げ会場にいた。今日オフという事もあり、かなりの量の酒を煽ったことを覚えている。
「…ん?ほれから、おれは ほーやってここまへ…」
歯ブラシを口に含んだまま考える。しかし、どうやっても帰宅した記憶に思い至らない。
こんな簡単な事を覚えていないくせに。さっきまで見ていた夢の内容だけは、いやに鮮明に記憶しているのだった。