第47章 《閑話》とあるアイドルの休日
久し振りに解放された私は、ベットの脇に座る。そして、彼の寝顔を見ながら 1人呟く。
『楽…貴方という男は、どちらの私も 愛していると言うの?
そんなのは、なんて…一途な人』
薄っすら赤い顔で、すうすうと寝息を立てる楽。
胸が、軋む想いだった。
だって。こんなのは、楽があまりにも可哀想だ。この報われない気持ちを胸に、あとどれくらい私を追いかけ続けるのだろう。
貴方が手を伸ばす度、逆に私は遠のいていく。
残酷な私が、彼にこんな現実を突き付けているのは分かっている。
じゃあ、ならば…せめて夢の中くらい。
『……楽』
私は、艶やかな銀髪に手を伸ばす。さらりと指に纏うそれを見ていると、まるで高貴な白薔薇のようだと思った。
背中を丸めて、彼の耳元に口を寄せる。そして、ふわり髪を撫でつけながら、囁く。
『愛してる』
せめて、夢の中でくらい。愛されて。
『愛してるよ、楽』
夢の中であれば、優しい言葉でも、甘い言葉でも。どんな言葉も。いくらだって、あげられる。
『楽…愛してる』
耳元で、二度 名前を呼び。三度 愛していると伝えたら。楽は、髪を撫で付けていた私の手を取った。
そして 自分の口元へ持っていき、そこへ口付けを落とした。
何度も、何度も。指先、爪先、指の腹に。心の底から慈しむような、優しい口付けを。
そして、囁いた。
「俺も…愛し てる」
すると。瞑られた瞳から、うっすらと光る何かが溢れ出て。彼の目元から一筋 零れ落ちた。
それは、白薔薇の花弁を滑る、朝露を思わせた。
『どうして…。どうして泣いてるの、楽…
幸せな夢を、みているんじゃないの?
お願いだから、夢の中でくらい…幸せでいて』
私はその朝露を、唇ですくい取った。