第47章 《閑話》とあるアイドルの休日
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あっという間の出来事で。いま私は、楽の腕の中だった。彼の鎖骨の目の前で、大きく瞬きを数回。ようやく、遅れて声が出せる。
『ちょっ、貴方!寝ぼけ』
「うるさい」
『え』
顔を上げた瞬間、楽の熱っぽい唇に 声が吸い込まれる。
『っん!?』
がっちりと抱き込まれ、身動きの取れない私。唇を、何度も何度も貪られる。楽の熱い舌は、強引に私の口中を犯す。
舌同士が絡まる度、ぴちゃ と生々しい水音が耳に入ってきた。
『ん、…ふ、や…待っ て!が、く』
「は……」
約1年ぶりの楽との口付け。強烈な甘い刺激は、私の脳を溶かしていくようだ。
しかし。あの時と違うのは、彼がいま正気ではないということ。なんとかして、まともに戻ってもらわなくては。
私は、なけなしの理性で彼の胸板を押す。
ちょうど、その時だった。
「…は、…Lio 」
『!!』
彼は、私のかつての名を 呼んだのだ。
その瞬間、全てを悟った。
彼は今、Lioとキスをしているのだ。
夢の、中で。
それに気付いたのと同時に、私は全身の力を抜いた。一切の抵抗をやめたのだ。
夢中で私の唇と舌を吸う彼を目の当たりにすると、痛いほどに伝わってくる。
楽が、狂おしいほどに 私を愛しているという事実が。
そんな熱烈な愛情をぶつけられて、胸が熱くならないわけがない。私は静かに瞳を閉じて、彼の口付けに溺れていった。
「Lio…」
『ん、ぅ…はっ…』
キスの切れ間切れ間に、楽は私の名前を口にした。
「Lio…、エリ」
『!!』
「は…、愛し てる」
やがて、楽の腕の力が緩んだ。