第46章 貴方達となら、また
後ろ頭を、龍之介の大きな手で包み込まれる。痛いくらい、顔を胸板に押し付けられた。
『龍、服が 汚れる』
「馬鹿だな。そんなこと、気にする必要ないだろう?」
ごくごく近い距離から返って来た声は、驚くくらい穏やかで。優しくて。私の涙は、止まるどころか その逆だった。
逞しい胸に額を押し当てて、ぽつり言葉を落とす。
『悲しい夢を見た気がします』
「どんな夢だったのか、聞いてもいい?」
私は、朧げな記憶の断片を拾い集めてゆく。
『大切な、ものを 失くしてしまう。そんな夢』
「……そうか」
『私にとって、それは凄く大切で。私の全部だったと言っても、過言ではないくらいの。
でもそれは…指の隙間から いとも簡単に零れ落ちていってしまった。
私は 途方に暮れて、立ち竦むんです。もう、きっとそれは 2度と返っては来ないと。
でも。夢の最後で、微かな希望が見えた気がしました。もしかすると また、それは私の手の中に戻ってくるのではないか、そんな、小さくて儚い光が』
私がどれだけ支離滅裂な言葉を並べても、龍之介は呆れることなく頷いて聞いてくれた。
「話してくれて、ありがとう」
彼はお礼を言った後、私の両肩をそっと押した。情けなく地面にへたり込んで涙する私の顔を、彼は至近距離で見つめる。
『見ないで下さい、こんな私を』
「ごめんね。それも、断る」
龍之介は、私の顔に両手を添えた。そして、両方の目元を 優しく親指の腹で撫でた。新たに生まれる涙も、残っていた涙の跡も。彼の指で拭われる。