• テキストサイズ

引き金をひいたのは【アイナナ夢】

第46章 貴方達となら、また




後ろ頭を、龍之介の大きな手で包み込まれる。痛いくらい、顔を胸板に押し付けられた。


『龍、服が 汚れる』

「馬鹿だな。そんなこと、気にする必要ないだろう?」


ごくごく近い距離から返って来た声は、驚くくらい穏やかで。優しくて。私の涙は、止まるどころか その逆だった。

逞しい胸に額を押し当てて、ぽつり言葉を落とす。


『悲しい夢を見た気がします』

「どんな夢だったのか、聞いてもいい?」


私は、朧げな記憶の断片を拾い集めてゆく。


『大切な、ものを 失くしてしまう。そんな夢』

「……そうか」

『私にとって、それは凄く大切で。私の全部だったと言っても、過言ではないくらいの。
でもそれは…指の隙間から いとも簡単に零れ落ちていってしまった。

私は 途方に暮れて、立ち竦むんです。もう、きっとそれは 2度と返っては来ないと。
でも。夢の最後で、微かな希望が見えた気がしました。もしかすると また、それは私の手の中に戻ってくるのではないか、そんな、小さくて儚い光が』


私がどれだけ支離滅裂な言葉を並べても、龍之介は呆れることなく頷いて聞いてくれた。


「話してくれて、ありがとう」


彼はお礼を言った後、私の両肩をそっと押した。情けなく地面にへたり込んで涙する私の顔を、彼は至近距離で見つめる。


『見ないで下さい、こんな私を』

「ごめんね。それも、断る」


龍之介は、私の顔に両手を添えた。そして、両方の目元を 優しく親指の腹で撫でた。新たに生まれる涙も、残っていた涙の跡も。彼の指で拭われる。

/ 2933ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp