第46章 貴方達となら、また
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頬を伝う、冷たい感触で目が覚めた。
懐かしい夢を見た。詳しい内容までは覚えていないが、頬を流れる涙が それを物語っているようだった。
きっと、今日 久し振りにミクに会ったからだろう。
少し休むだけのつもりが、どうやら深く深く眠り込んでいたみたいで。なかなか夢の世界の感傷から抜け出せない。
座り姿勢を正してみても、とめどなく流れ落ちる涙を止められない。私は、涙を拭うこともせず、嗚咽を漏らすこともせず、ただ静かに涙を流し続けた。
落涙は、ストレスの緩和に繋がるという。もうこうなったら、出続ける限り泣き切ってやろう。
そんな決意を固めた時だった。
「えっ、春人くん!?どうしたんだ!」
『龍』
仕事部屋に現れたのは、龍之介だった。彼は、ひたすらに涙を流す私を見て驚きの声を上げた。
そして、堪らずこちらへと駆け寄る。
「何か、悲しい事があった?」
『いえ…』
「辛いのか?」
『いえ』
彼は、私の前で片膝を突き 跪く。そして、まるであやすみたいに優しく声をかけ続けた。
しかし、夢の内容をハッキリと覚えていない私は、具体的な解答を返すことが出来ない。
ただ、心が痛い。悲しいのだ。
『龍…お願いです』
「何?」
『1人にして、もらえませんか。お願いします』
「ごめん。それは嫌だ」
キッパリと断られた後、私の腕が強く引かれた。
「こんなふうに泣いている君を、1人にすることは 俺には出来ない」
『こんなにも、頼んでいるのに』
「ごめん…いくらでも謝るよ。
でも お願いだから、1人で泣かないでくれ。泣くなら 俺達の…。いや、俺の前で泣いてくれないか」
俺の前で。彼はそう言ったが、私は今、彼の腕の中で泣いている。