第46章 貴方達となら、また
そこから、ハードな生活が始まった。
残業代なんて出なかったけれど、とにかく彼女の為に出来る事は全てやった。
ミクの歌を、出来るだけ多くの人達に聴いてもらいたい。早く。早く。
薄々 気付いていた。
私が彼女に、こうも固執する理由だ。それは、叶えられなかった自分の夢を 勝手にミクに押し付けているだけ。
こんな私の気持ちを知ったら、彼女はプレッシャーを感じてしまうだろうか。迷惑だと跳ね除けるだろうか。
それは分からない。
とにかく。今まで死んでいた分を取り返すように、がむしゃらに働いた。
かなり汚い事もやった。何でもやった。
そんな手段を選ぶ私を、欲しがる人が出て来るなんて思いもしないで。
きっと、私のせいで夢を失う人間もいたと思う。
しかし。申し訳ないが、それは仕方がないことと割り切った。
だって私にとっては、その知らない誰かよりも ミクの方が大切だったから。
いや…本当に大切だったのは、私の代わりに 私の夢を叶えてくれる人間。だったのかもしれない。
それでも、ミクと働いた約1年半は楽しかった。そのほとんどを、コネ作りや人脈を広げる為に費やしたが。
私達の努力が実り、少しずつ仕事が入るようになった。深夜ラジオや、地下劇場でのライブばかりだったけれど。仕事が決まる度に2人で飛んで喜んだ。
そんな時だ。
私の前に、彼とも彼女とも形容し難い人物が現れたのは。
さきほど記した “ 汚い手段を選ぶ私を欲しがる人物 ” の、遣いである。
「すみませぇん」
私を新たな世界へと誘うこととなったのは…桃色の長髪をした、おかまだった。