第46章 貴方達となら、また
「えっと、ミク さん?」
「は、はいっ!」
「ありがとう。握手して貰ってもいいかな?」
「え…あ、はい!喜んで!」
照れながら、彼はミクと握手を交わした。私はその様子を、近くで見守る。
「初めて聴いたけど、あんたの歌は…なんだか元気をくれたよ。
実は 恥ずかしい話なんだけどね、おじさんリストラされちゃったんだ。1ヶ月前くらいに。
毎日毎日、家族には会社行くフリをして。自暴自棄になって再就職先も探さないで、ここで寝てばかりいたんだけど…
なんか、ミクさんの歌のおかげで 少しだけ勇気が出たよ。
なかなか上手くいかない人生だけど。もう少しだけ、頑張ってみようかなって 思えたんだ」
私とミクは、2人して男の背中を見送った。彼は、何度も何度もこちらを振り返っては手を上げて挨拶をしてくれたのだった。
そんな彼の姿が見えなくなってから、私は隣に立つ彼女に声を掛ける。
『ミク。今度は、もっと大きなステージで歌おう』
「え?で、でも、私なんて」
『大丈夫。私が貴女を、どんな大きなコンサートホールも満席にするアイドルにしてみせる』
「エリさん」
『ミクの歌は、もっと大勢の人に聴いてもらわなくちゃいけない。それで、傷付いた人達の心を癒してあげよう』
さっきの男性や、私の心を、癒してくれたみたいに。
「私に、出来ると…思いますか?」
『出来るよ。だってミクの歌声は、綺麗だ』
その日の内に、私は彼女のマネージャーからプロデューサーに転身した。
そして、長かった髪をばっさりと切った。
ここからは、Lioだと周りに悟られず、深く深く芸能界に関わっていく必要があるからだ。
ミクを、トップアイドルにする為に。