第46章 貴方達となら、また
長椅子を1つ占領して眠りこけるサラリーマン。私は転ぶフリをして、その男に突っ込む。
驚いて飛び起きた彼は、シャキッと姿勢を正して座り直した。辺りをキョロキョロするリーマンに、私はペコペコと頭を下げるジェスチャーをした。
少し荒いやり方だが、せっかくのステージに居眠りをする男の姿があっては、雰囲気がぶち壊しだ。
まぁ、陽気なピエロのした事だから許してもらえるだろう。
客席を人で満たした私は、ステージの上のミクを見て頷いた。彼女は、こちらに頷き返した。
これで、私の役目は終わった。早く控え室に戻って、このピエロメイクを落としたい。
と、思っていたのに。誰かが私の手を引っ張った。
『え』
「ぴえろさんも、おうた、いっしょにきく?」
『い、いや。私は』
「ぴえろさーんっ!いっしょに、みくちゃん、おうえんしよう?」
この無垢な子供達の瞳に、抗える人間などいないだろう。私は仕方なく、子供達の隣に座った。
まだ、歌を聴く気分には なれないんだけどな。心の中だけで溜息をついて、ステージを見上げた。
「はっ、は、はじめましてっ!えっと、私はミクといいます!今日は、とてもとても緊張しています!」
「おねえちゃんっ、がんばれ〜!」
「だいじょぅぶだよ!きっとできるよ、がんばぇっ」
『……』
(子供に励まされてどうする)
私は重い頭を手で支えて、俯いた。
「緊張していますが、精一杯歌います!
皆さんが、少しでも楽しい気持ちになってくれますように」
そう言って、ミクはシンセサイザーのスイッチを入れた。