第46章 貴方達となら、また
「やっぱり、私の歌なんて 誰も聴きたいと思わないです。よね」
『いや、皆んな知らないだけでしょう。これから貴女がここで歌うこと。少し待ってて』
私はそれだけ言うと、控え室へと1人戻った。そして、鏡の前に腰を下ろす。それから顔面を白粉で真っ白にして、口紅で目の上に大きくダイヤのマークを入れた。同じく口紅で、本来の唇より遥かに大きくはみ出した唇を描く。
メイクが終わると、ハンガーラックに立て掛けてある、誰のものかしれない衣装を手に取る。
私が選んだのは、ピエロの衣装だ。
『ちょっと臭い』
ぽつりと零してから、私は控え室を飛び出した。
扉を潜ってから、すぐにダッシュで助走をつける。そして、バク転、バク転、捻りを入れてから今度は、側転、側転。最後に大技、バク宙を決めた。
それから大袈裟な笑みを顔に貼り付けて、着地と共に両手を上げる。
周りにいた親子やその他大勢の人間が、歓声と共に拍手をくれる。タイミングを見計らい、陽気な声を張り上げる。
『みんなーーっ!もうすぐ、僕のお友達、ミクちゃんのお歌の時間だよー!
ピエロさんと一緒に、楽しいミクちゃんのお歌を聴いてみよー!』
私は、ポケットから取り出したボール4つ取り出す。それを使ってジャグリングしつつ、ミクが待つステージへと移動を始めた。
すると、私の後ろに 数人の子供達が連れ立って歩いた。子供達には、当然 親御さんもセットだった。
くるりと身を返して、後ろ向きに歩く。子供達にジャグリングを見せるフリをして、自分に付いて来ている人の数をカウント。
『……』
(25人か。まぁ、こんなもんかな)
私は、ニッコニコと口角を引き上げて ミクのステージへと進んだ。