第46章 貴方達となら、また
今日は、私がミクの為に取ってきた初めての案件だった。
それは、ごくごく小規模なライブステージ。ステージと言っても、30人くらいしか収容出来ない、百貨店の屋上にある舞台だった。
そんなミニ遊園地にある小さなライブ会場にさえ、彼女は緊張しまくっていた。
「っ、ど、どうしよう、きき 緊張しますっ!」
『……手のひらに、人って文字を書いて飲み込んでみれば?』
「そうですね!」
震える彼女が あまりに不憫で、私は珍しく声をかけた。すると彼女は そんな雑なアドバイスに、律儀にも従っている。
小さな控え室に2人きり。何となく座りが悪かった。
おそらくだが、私には彼女が羨ましくて妬ましい気持ちがあったのだろう。
だってミクは、これからも、何度だってステージに立てるのだ。いくらだって歌をうたえるのだ。
私にはもう出来ない事を、いとも簡単にやってみせる。そんな彼女の隣に、居たくなかった。
こんな馬鹿な嫉妬心を持ってしまうくらい、当時の私には余裕がなかったのだった。
控え室を出た私は、同じく屋上にある屋台へと向かった。昼食にとメロンパンを2つ買って、ステージの椅子に腰掛けた。
今は、ちょうどヒーローショーの真っ最中。赤と青とピンク色の人が、1匹の怪獣を寄ってたかってボコボコにしている。そんなリンチを眺めながら、パンを齧った。
「エリさんは、ヒーローが好きなんですか?」
『!!』
いつのまにか隣には、ミクがいた。
1人で居たいこちらの気持ちなど度外視して、距離を詰めてきた。私は諦めて、ミクに言葉を返す。
『ヒーローって、勝って当たり前だから。あまり好きじゃないかな』
「勝って、当たり前?ですか」
『多対一。勝って当然でしょ?なんで、こんな理不尽がまかり通るんだろう』
「うーん…怪獣さんが、悪者だからでは?」
『それって、誰が決めたの?もしかしたら、怪獣にも怪獣なりに事情があるかもしれないのに』
「事情ですか?例えば?」
『た、たとえば…街を壊さないと、人質に取られた恋人を殺される。とか?』
私は何を言っているんだろう。いつの間にか、彼女のペースに乗せられていた。