第46章 貴方達となら、また
「はじめましたっ」
『……』
(何を?)
「ご、ごめんなさいっ、噛んじゃいました…、はじめまして!
えっと、私ミクといいます。アイドル目指して活動中ですっ。よろしくお願いします!」
緊張しやすい性格なのだろう。しかし、私への挨拶くらいでガチガチになってしまう彼女は、これからアイドルとしてやっていけるのだろうか?
『中崎エリと申します。貴女のマネージャーに就任しました。よろしくお願い致します』
最も無難な言葉を選び、挨拶とした。そんな私を、頭を上げた彼女は じっと凝視した。
そして、ぽーっと熱っぽい瞳をして こう言った。
「エリさん…。綺麗、ですね。私なんかより、よっぽどアイドルみたい」
「ん゛んっ、あー ミク。そういう訳だから、今後は彼女が君の面倒を見てくれる。困った事があれば、中崎くんに相談しなさい」
「はいっ」
今の状態の私に、アイドルみたい。と言ったミク。おそらく、社長からは何も聞かされていないのだろう。
私がLioである事も、夢を絶たれた事も。
気まずそうに咳払いをした社長の目が泳いでいた。
これからビジネスパートナーになる彼女に、余計な気を使われるのは遠慮願いたかった。なので事情を黙ってくれていた彼の気遣いに感謝だ。
そこから、私の第2の人生がスタートした。
しかし。ミクには申し訳ないが、私のやる気はゼロに等しかった。
勿論、必要最低限の事はやった。でも帰宅はきっちり定時だったし、歌やダンスのレッスンもノータッチだった。
社長との盟約通り、スケジュール管理と営業のみを それなりにこなす。
それから1週間後だ。
私が、初めて彼女の歌を この耳で聴く機会が訪れたのは。