第46章 貴方達となら、また
翌日、朝一番で紹介された医師に会った。そして、昨日の夜 寝ずに考えまとめていた説明を述べた。
内容は、頭の中にまとまっているはずなのに。スラスラとは言えなかった。緊張すればするほど、また吃音が顔を出すのだ。
そんな様子を、静かな瞳で見つめていた医師は 冷静に言った。
「まだ、断言は出来ませんが。中崎さんから聞いた自覚症状と、いま現在の様子から鑑みた結果…
けいれん性発声障害の可能性が高いかと」
『けいれん性、発声障害?』
私は、ただオウムのように先生の言葉を繰り返した。
「えぇ。具体的な症状を説明しますと」
医師の話を、必死に聞こうとしているのに。内容が頭の中に入って来てくれなかった。膝の上に置いた拳が、微かに震える。
だって、ありえない。
今まで頑張って来た私が。メジャーデビュー目前の私が。アイドルになる夢しか見てこなかった私が!
よりによって、発声障害?
そんな馬鹿な話が、あるわけない。神様だって、さすがにそこまで酷な仕打ちをするはずない。
『手術とかをすれば、治るんですよね』
「改善は、見込めます。が、聞くところによれば 貴女は歌手志望でいらっしゃるとか。
そこまで繊細な発声コントールが、完全に戻るかどうかは 正直言って…」
正直言って。
その続きを 医師が何と言ったのか、ぼんやりとですら覚えていない。
注射に手術。手の打ちようは、あるにはある。しかし、完全に元に戻る可能性はゼロに近い。そして、改善の確約もされない。
それだけの現実を持って、私は医者を後にした。
多分、タクシーに乗って自宅まで帰ったのだろうが。詳細な記憶はない。
覚えているのは “ あぁ 神様なんていないんだった ” という、当たり前の事実を考えていたということだけ。