第46章 貴方達となら、また
『……』
(あの2人組は、私が招待した芸能プロの人間だな。顔がよく似ている。兄弟なのかも)
「誘っておいてなんだが、よく付き合ってくれたな」
「ま、暇だったからねぇ」
「音楽なんて。アイドルなんか。が口癖のお前だから、てっきり来てくれないと思ってた」
「ははっ。嫌いな物なのに、あえて近付いて触ってみたくなるんだ。それくらい僕は歪んでいるのさ」
「相変わらずだな。でも、嫌いなんて言わず真剣に聴いてみてくれないか。きっとお前も、気に入るはずだよ。
了 」
ここへ招待出来た、数社の芸能事務所。MAKAの後押しと、私の地道な営業による賜物だ。
私は、私がデビューする為に必要な努力を積み重ねてきたつもりだ。
アイドルになりたい。テレビに出て有名になりたい。沢山の人に私の歌を聴いて欲しい。辛い思いをしている人を笑顔にしたい。
そんな、胸に渦巻く欲望達。
でも今は、そんな気持ちは一切合切捨ててしまおう。
今はただ、ここにいる、目の前にいる人達だけに 満足してもらえれば良い。
そして、自分が1番楽しもう。
『私の歌を聴きに来てくれて、ありがとう。
楽しんで歌うので、頑張って聴いて下さい』
私の大切な、大切な1曲。
これは、万理に捧げる為の歌。
結局、ここに貴方はいないけど。この曲だけは、他の誰でもない貴方に捧げる。
私の胸にあるのは、希望と、夢だけ。
この時の私は、多分 世界で1番幸せだった。