第45章 私のところに、帰って来て欲しい
そんな私に、天は何かを言おうか迷っている様子で、唇を薄く開いたり閉じたりを繰り返した。
やがて、選び抜いた言葉を ゆっくりと並べ始める。
「あの人を、悪く思わないであげて。口止めされてるけど、彼はキミのファンなんだ。キミのCDも、ライブ映像も、いつも観てる。こっちが恥ずかしくなるくらいに。
いつもキミを、応援してるよ」
天の言葉が、胸にしみていく。それが涙となって外に漏れ出てしまわないよう、自分に喝を入れて言葉を返す。
「私、あの人にまた、会えたら…。ずっと、言おうと思っていたんです。
どうして、私の前から急に姿を消したんですか。私がドジで才能もないから、愛想を尽かしてしまったんですか?私の事なんて、もう忘れてしまったんですか?
お願いだから、また…私のところに、帰って来て欲しい」
「!!
キミ、気付いて」
天は私の言葉を聞くなり、その瞳を大きくした。そして何か言うとしたが、私はそれを遮った。
「あの人は、私にとって大切な人なんです。私の歌を、綺麗だって…好きだって、言ってくれた 初めての人!
私は、彼女に 救われていたんです。本当に、大好きっ、だったんです」
「…プロデューサーは キミのことを忘れてなんて、いないよ」
「はい。そう、だったんですね。
あの人は…エリさんは、まだ私を、見ていてくれた。私を、応援してくれていた。
でも」
我慢していたのに、目尻には水分が溜まってしまう。私はそれを指の腹で、なかったことにする。
そして、せめて笑顔は絶やさないようにして 天に向き合い続ける。
「もう、私のプロデューサーさんじゃなくなっちゃったんですね!」
「……」
天は、長い長い沈黙の後 ごめんね。とだけ呟いた。そして続ける。
「大切にするから」
「あっはは。何だか、エリさんがお嫁に行ってしまうみたいですね。でも…
はい!よろしくお願いします」