第45章 私のところに、帰って来て欲しい
「お疲れ様でした!以上で収録は全て終了になりまーす!」
スタッフが、元気良く そう宣言する。すると演者達は、近くの人間と談笑を始めたり、挨拶を交わしたりと動き出した。
そんな中、怒り顔の社長が こちらへと駆け寄ってくる。しかし、私はその隣をすり抜け、あの人の元へ向かった。
「あのっ」
しかし私が声を掛ける前に、隣にいた黒髪で眼鏡の男性と話を始めてしまう。
どうしても、お礼が言いたい。
どうしても、顔を見て その声を聞きたい。
逸る気持ちを抑えながら、少し離れた場所で待っていると。後ろから声を掛けられる。
「どう?凄いでしょ。うちのプロデューサーは」
「!!
九条さん」
そこに立っていたのは、TRIGGERの九条天だった。そして、そう言った彼は どこか誇らしげな表情だ。
「はい。本当に、助けられました」
「本番中に気を抜いてたでしょ?」
「う、すみません…私が全面的に悪いです」
「ふぅん。台本にそんな流れは書かれてなかった。なんて言い訳は並べないんだね。その気概だけは、褒めてあげる」
そう言って口角を上げた天は、こう続けた。
「あの司会者さん、キミの歌がとても気に入ったんだって」
「え」
「だから、少しでもキミの名前を視聴者に覚えてもらえるように話を振ってくれたらしい。
本番前に、そう話していたよ」
「そうだったん、ですね」
「言うまでもないとは思うけど、あの人はいくつもの番組を抱えてる。これから懇意にすれば、キミにとっても有益なはず」
そんな大御所に私の歌を気に入ってもらえたなんて、まるで夢の様な話だ。
天と話をしている最中、そろそろ春人の体は空いただろうかと後ろを振り返る。
しかし、そこにもう春人の姿はなかった。
ぎゅっと胸が締め付けられる思いで、ぽつりと零す。
「私、やっぱり…避けられてるんですね」
「……」