第45章 私のところに、帰って来て欲しい
「 ——— あぁ 」
ミクの、最も得意とする領域だから。
「私の 恋は ——— 」
目の覚めるような、突き抜けるような高音。
私は瞳を閉じて、感じる。
久方ぶりに間近で聞く、彼女の高音域。
トップキーも、全く揺るがない。安心して聴いていられる音。
あぁ。彼女の、ミクの声だ。
「ありがとうございました!」
ステージで、深々と頭を下げるミク。長いツインテールが、しなるように大きく揺れた。
そして顔を上げた彼女の顔は、とても晴れやかだった。
しかし。
“ ミクー!お疲れ様。今日のライブも最高だったよー! ”
そう言って、彼女を抱き締めてやれる私は もういない。
「春人くん?彼女のところには行かなくていいの?良かったって、言ってあげればいいじゃないか」
『いえ。ミクが、この大きな舞台で 本来の力を出し切る事が出来た。それだけで、もう私は満足ですから』
「そんなもんか?俺なら絶対、駆け寄って抱き締めて、最高だったぜ!って声かけるよ」
「プロデューサーは、楽みたいな単純な作りはしてないってこと」
「おい。そりゃどういう意味だ、天」
またも喧嘩が勃発しそうな2人を、龍之介が仲裁役となって間に入る。
今は、そんな喧騒でさえ愛おしい。センチメンタルになりかけていた気持ちを、上向きにさせてくれるから。
ミク、貴女はいつの間にか、私がいなくても 立派に歌えるようになっていた。
直接、伝える事は出来なかったけれど。せめて心の中でだけでも、お礼を言わせて欲しい。
ありがとう。
私は、間違いなく貴女の歌に救われた。
私を救ってくれたように、これからも貴女はきっと その歌声で多くの人を救うだろう。
それを、近くで見ることが叶わないのは残念だけど。
ずっと応援している。近くも遠くもない、この距離から。
ずっと。