第45章 私のところに、帰って来て欲しい
千はさきほど我々に、また後で。と告げた。
それは、この後 エンディングトークの撮影があるからだ。
エンディングトークは、オープニングトークとは異なり 男女混合で行われる。
Aスタにて、男女合計20グループが一堂に会するのだ。
と、言う事は…
それを撮影する前に、ミクの歌録りがあるということ。
『さぁ、ここからが本番ですよ』
「あーあ。言っちゃったよ、本番って」
「お前…TRIGGERを1番愛してるとか言っておきながら」
「まぁまぁ。俺達の撮影は上手くいったからね。次は彼女を応援してあげようよ!」
龍之介の天使発言の直後。コンコンと外から扉が叩かれた。
『はい』
「失礼します」
『!!』
その声は、凄く聞き馴染みがあった。声の主の正体に気が付いたのと同時に、私は壁にピッタリと身を寄せた。
ゆっくりと開かれた扉からは、予想していた人物が入って来る。
「は、はじめまして。私、First Sound Entertainment所属の ミクと申します。
今日は、TRIGGERさんと同じ番組に出させて頂くということで、ご挨拶に伺いました!
そ、それにこの度は、あんなに立派なお花まで頂いてしまって…!」
「それは、ご丁寧にありがとう。俺は、十 龍之介です。今日はよろしくね」
龍之介に続き、天と楽も同じように名を名乗る。しかし、3人の視線はチラチラと私の背中に向けられた。
“ 何をやっているんだ ” という声が、私にはしっかりと届いていた。
ミクはガチガチに緊張しているので、私の存在には気付いていないようだが。後ろに控えている社長は、ばっちりとこちらを捉えていた。
「えっと…なんか、すんません。いつもはここまで変わった奴じゃないんですけど」
「あぁ、いえ。そんな、お気になさらず…」
楽の言葉を受け、そうは答えた社長だったが。私を捉える目付きは、相変わらず不審者に向けるそれだった。
ようやくミクも、こちらの存在に気付いたようだ。
「っきゃ!」
「驚かせてごめんね。この蝉みたいな男は、ボクらのプロデューサー。怪しいけど、怪しい人じゃないから安心して」