第44章 余裕たっぷりの顔して そこに立ってりゃいい
彼らが立つステージは濃紺。
巨大なバックスクリーンには、しとしと降る雨が映し出されている。
ガラスを用いた数本の柱が、キラキラと透明に輝いていた。
足元を薄く這うスモークは、曇り空を思わせる。
伴奏が始まる。
冒頭の一節を歌い上げるのは、楽。
《 男は雨の中。深夜の電話ボックスで恋人に電話をかけようとした。
しかし、その相手はもう 自分の恋人ではないと思い出す。そして、ダイヤルを回す指を止めた。
結局男は、電話ボックスから出て、冷たい雨に濡れながら歩き始める。
そんな 孤独感漂う男を、通り過ぎる車のヘッドライトが照らすのだか、そこに浮かび上がる自分の影は ひとつだけであった 》
そこまでを、妖艶に 完璧に表現し、歌い上げる3人。
曲は、いよいよサビの部分に突入する。
《 雨は、男の心の中にも降り続ける。もう終わった恋を、いつまでも追い求めていまある男の心にも、雨は降っていたのだ。
もしかすると男は、その涙の雨が 恋人の面影を心の中から消してくれる事すら 願ったかもしれない。
そして、2人の出会いや思い出を彷彿とさせるワードが出て来る。
そんな優しい記憶を、男はただ1人で胸に抱きながら、街を歩くのだ。
その瞳には、涙。
男の喪失感を、聴く人の胸に響かせるラストで 幕を閉じる 》
スクリーンに映る雨の映像が、ガラスの柱に反射して。
薄く瞳を開いた楽の頬に、その光が映り込んだ。
それはまるで、彼を泣いているように見せていた。