第44章 余裕たっぷりの顔して そこに立ってりゃいい
3人が、ステージへと向かう。
私はそんな彼らの背中に、声をかける。
『楽』
名を呼ぶと、一度は3人ともが振り向いた。しかし、龍之介と天は 楽をその場に残してステージへと向かった。
「なんだよ」
ぶっきらぼうに、こちらへと戻ってくる楽。
呼び止めたは良いものの、まだ伝えたい事が頭の中でまとまっていない。しかし、もうスタンバイの声はかかっているし 急がねばなるまい。
もうこうなったら、私がいま思っていることを全て伝えよう。
「おい、言いたいことがあるなら早く言」
『私も、貴方が歌う レイニー&ブルーの冒頭が聴きたいと思った観客の1人です。
あぁ、いえ…。私の事など、今はどうでもいいですね。
楽。どうか歌って下さい。
今日、この曲を歌う時だけは、ファンの事を想っていなくていい。ただ、貴方が愛する、愛しい人を想って歌って下さい。
貴方が辛い恋をしているというのなら、それすらも糧にして。歌い上げて。
そんな、貴方の全てを詰め込んだ歌を…きっと、楽の想い人も どこかで聴いていると思うから』
上手く伝えられた気は一切しないが、楽は歯を見せて笑った。そして、その子供のような笑顔で返事をする。
「おう!」
ステージの上に、3人が揃い立つのを見守る。
「届くといいね。彼の歌声が」
『え?』
「楽の好きな子に!」
私を挟むように並んで、2人もステージを見つめる。
『…大丈夫。絶対に届くよ』
私がここで、聴いているのだから。