第44章 余裕たっぷりの顔して そこに立ってりゃいい
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「なんでオレとユキのカバー聴きに来てくれなかったんだろう!もう超ショックだよ!エリちゃんにも絶対に生で聴いて欲しかったのに」
「モモ。その名前、ここでは禁句」
「おおっと、そうだったぁ!
でも、本当にどうしたのかな。TRIGGERの子達、何かトラブってなきゃいいけど…」
「それを確かめる為に、Dスタ向かってるんでしょ。ほら、もう見えてきたよ」
「おい…TRIGGERどうしちゃったんだよ」
「さぁ。俺にも分からないけど、ずっと楽譜と睨めっこ」
「今さら楽譜見てるって、かなりヤバイよな」
「自分達の楽曲トチるのと、わけが違うからな。もし、あんな名曲のカバーを失敗したら…!うぅ、想像するだけで震えが」
「もうすぐ、スタンバイの時間だってのに…。本当に、大丈夫なんだろうな」
「俺が知るかよ。そろそろ中戻ろうぜ。本番の時間だ」
「うーん?ねぇユキ。今の、どう思う?」
「そうねぇ…。トラブルの予感?」
一心不乱に楽譜を眺めていた3人は、やがて瞳を閉じた。きっと今、脳内で各々がリハーサルを行っているのだろう。
自分に与えられた、新しいパートを頭の中で歌っているに違いない。
そんな彼らを見つめる私の肩を、誰かが叩く。
振り向くと、そこには本番衣装のままのRe:valeが立っていた。
私を見るその表情は 心配そうで。このスタジオに漂う不穏な空気感を敏感に察知したのだと思う。
「大丈夫?何か、あった?」
「トラブル?ねぇ、もしそうならオレ達に出来る事は何かある?」
優しい先輩方に、何か答えようとした時。
楽と龍之介と天は、揃って立ち上がった。その瞳が、物語っていた。
全てが整った、と。
そして、まるでタイミングを計ったように スタッフから声がかかる。
「TRIGGERさん!スタンバイお願いします!」