第44章 余裕たっぷりの顔して そこに立ってりゃいい
「な、なんでうちに、八乙女プロさんから 花が来とるんだ…!おいミク!もしかして お前、何か繋がりがあるのか?」
「なっ、ないですよっ!私が聞きたいくらいです!しかも、こんな立派なお花…。うぅ、なんでなんだろう…」
そんな様子を目の当たりにした私達は、小声で相談する。
「…緊張、まるで ほぐせなかったみたいだけど」
「めちゃくちゃ恐縮してたな」
「うん…可哀想に…」
『え?失敗したんです?私しくじったんですか?』
そして、久々の生ミクに視線を奪われていた私は、遅れて気付く。
彼女の隣にいる、社長の存在に。
彼は、私がLioであると知っている側の人間だ。以前、お世話になっていたFirst Sound Entertainmentの、代表取締役である。
今回は ミクの初の大舞台という事で、彼自らが付き添いでやって来たのだろう。
『………』
(社長を直に見るのも、2年弱ぶりか…)
八乙女事務所に移ってからも、私はしばしば報告の連絡を入れていた。
自分が口を割った為に 私が八乙女プロに行かざる得なくなった。社長はずっと、そう気に病んでいたのだ。
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そんな彼の気を、少しでも楽にしてやりたかった。だからしばらくは、電話でやりとりをしていたのだが。それも時間経過と共に頻度は減り、やがてこちらから連絡をする事もなくなった。
最近やり取りをしていないとはいえ、私が男装をしてTRIGGERのプロデューサー任務に就いているのは知っている。
今の春人の姿で会えば、さすがに私だと気付くだろう。
楽と龍之介に、私が女であるとバラされても困るし。ミクに私がここにいる事をバラされても困る。
早めにこちらからコンタクトを取り、口封じをしなければ。
「うむむ…!やけに熱い視線を送っていますなぁ。さては、あの人が春人ちゃんの想い人かにゃ!?」
「でも、見つめているのは随分とおじさんじゃない?もし本当にそうなら、さすがにショックが大きいな」
『!?』