第44章 余裕たっぷりの顔して そこに立ってりゃいい
そして。あっという間に撮影の当日はやって来た。
今回の企画 “ 懐かしの ヒットソングメドレー ” は、生放送ではない。
なので比較的に ではあるが、現場は落ち着いていた。
踊り場に、ずらりと並べられた多くの祝い花。その中でも、一際目立つものがある。
“ First Sound Entertainment ミク様 ” そう書かれていた。
ミクをイメージした青い花がふんだんに使われた、特大祝い花だ。とにかくボリューミーで、一般的なものの2倍はあった。
「……これ、もしかして 春人くんが?」
『特別発注しました』ふふん
「間違ってる。方向性が間違ってるぞ」
「完全に悪目立ちしてるよね」
TRIGGERの3人は辛口評価だが、私は満足げに それを見上げた。
『いいですか?ミクは、やれば出来る子なんです』
「うーん…なんだろう?その母親目線は…」
「それにだ。お前は彼女の何を知ってるんだよ」
「……」
(元プロデューサーなんだから、知ってて当然なんだよね)
『緊張さえしなければステージの成功は間違いなしなんです。要は、私達で彼女をリラックスさせてあげれば良いんですよ』
「なるほど。だから、綺麗な花か!」
「この馬鹿でかい花見て落ち着けてっか」
「安直」
ちなみに、送付者の名前は八乙女プロダクションとなっている。さらに言えば、私の独断で名前を無断使用したのだった。
……社長からのお叱りは、覚悟の上である。
私が心の中で覚悟を決めていた、その時。
廊下の向こうから、懐かしい人物が歩いて来るのを見とめる。
あれは、間違いない…。ミクだ!
『っ、は、早く隠れて!』
「なんでだよ!」
3人は、なんだかんだ言いながらも後に続いた。私達4人は、柱の陰から様子を伺う。
そんな異様な光景を、通り過ぎるスタッフ達が二度見、三度見をして行くのだった。