第44章 余裕たっぷりの顔して そこに立ってりゃいい
『…天。少しいいですか?』
「??」
私は、こっそりと天だけを呼んで外へと連れ出す。2人して廊下へ出ると、私は彼と向き合った。
『天…、えっと…その ですね』
「なに。珍しく もじもじして。可愛いんだけど」
人差し指と人差し指を、胸の前でくっつけたり離したりする私に 天が言った。
『か、可愛いとかは余計です!
…貴方だけには、話しておこうと思いまして』
「うん?」
『以前、貴方達に話をしたでしょう。
私が八乙女プロに来る前、小さな事務所に勤めていたと。そこで、担当していたアイドルの歌に 心を救われたと』
【23章 488ページ】
「覚えてるよ。それで、そのアイドルがミクって子なんでしょ」
天は、これから言わんとしていた内容を簡単に言い当てた。
『覚えていて、くれたんですね』
「当たり前。キミが自分の過去を明かした時は、かなり衝撃を受けたからね。印象に残ってた」
『…なら、話は早いです』
「!!
ちょっ」
天は、慌てた様子で短い声を上げた。私が大きく頭を下げたからだ。
『ミクは…私にとって、恩人なんです。喉が潰れて、失意のどん底にいた私を救い出してくれた恩を…ここで返したい。
だからどうか…協力を、よろしくお願いします』
「…はぁ。頭上げて。こんなところ、誰かに見られたら面倒でしょ」
天は、私の頭を上げさせてから言う。
「キミのワガママなんて、叶えられる機会そうないからね。むしろ嬉しい」
今は互いに仕事中だというのに。
春人ではなくエリに、こんなにも眩しい笑顔と甘い言葉をくれる彼は…狡い。