第44章 余裕たっぷりの顔して そこに立ってりゃいい
『………はぁ。可愛い』
「「「!?」」」
それは、意識せずに漏れ出た私の心の声。3人は揃って、勢い良く顔をこちらに向けた。
そんな事には気付かず、彼女の笑顔と歌声に夢中になっていた。
「ちょ、おい、聞いたか。今の!奴の、奴らしからぬ感想をっ」
「う、うん。春人くん、よっぽど好きなんだね…」
「2人とも、取り乱しすぎでしょ」
最後まで再生を終えたデッキは、自動でスリープモードに入った。
「なんつーか、春人が推してるアイドルって聞いてたからハードルが上がったのかもしれねぇが…
割と普通だったな」
「うん。俺も楽と同じ感想かな。もっと、とんでもない子なのかと…。あぁ、それこそ」
「「Lioみたいな!」」
楽と龍之介は、声を揃えて言った。
『………』
「2人とも。彼の顔を見て。多分それ以上言ったら殴られるよ」
慌てた2人は、説明を付け足す。
「いやだから、悪いとは言ってねぇだろ!?
技術面はまだ伸び代がありそうだが…こいつにはアイドルにとって1番大切なもんが、しっかり備わってるよ」
「ああ!ファンを楽しませたいって気持ちが、しっかり見えた。それに何より、歌うことが大好きなんだろうね。それがあるから、観てるこっちが楽しい気持ちになれるんだ」
「…もう一度聴きたいか。聴きたくないか。そう問われれば、彼女は間違いなく前者。
そう聴く者に思わせるには、類稀な才能が必要だよ」
良かった。私が1番伝えたかった気持ちを、映像を見た彼らはしっかりと受け取ってくれたようだ。
『そうなんです。だからミクは、最高なんです。あの眩しい笑顔、一生懸命な姿、穢れなき人間性は正に天使そのもの。彼女の歌を聴いて癒されない者はいないんです。あぁ、尊い。というか普通に可愛い…抱き締めたい。私が守ってあげたい』
「…こいつ、ちょっと気持ち悪いな」
「もしかして春人くんって、かなりのヲタクさんなんじゃ…」
「ヲタクの域を超えて、むしろ信者でしょ」