第99章 信頼
力が出ない。
海の上はひどい嵐のはずなのに、ここは物凄い静かだ。
あぁ、海に落ちるのはいつ振りだろうと水琴は薄れゆく意識の中思う。
そういえば、あの時も嵐だった。
一度元の世界に帰った後、彼らと生きる決意をして井戸に飛び込み。
荒れ狂う嵐の中海へ放りだされた。
まだ能力者ではなかったが穏やかな海しか知らない水琴が無事に泳げるわけもなく、今みたいに沈んでいくのを助けてくれたのは、誰だったっけ。
くん、と腕に巻きつけてあった鎖が引っ張られる。
微かに目を開く。
ぼやける視界に、二人のエースがだぶって見えた。
__そう。あの時も。
能力者にもかかわらず、真っ先に私に気付き、飛び込んでくれた。
力強い腕が水琴を捉えた。
***
ゆらゆらと穏やかな揺れを僅かに感じる。
まぶたに刺さる光を感じ、水琴は薄らと目を開けた。
気がつけば船は嵐を抜けていたらしい。
お互いずぶ濡れの状態で、甲板へと倒れ込んでいた。
「……気付いたかよ」
力無くエースが呟く。
「あの海賊は……?」
「知らねェ」
どうなったかは分からないが、危機は乗り越えたらしい。
まだだるい身体をゆっくりと起こす。
「……お前、バカだろ」
まだ倒れ込んだまま、エースが呟いた。
「馬鹿とはなに、馬鹿とは」
突然の暴言にむっとし不平を零せばぐったりと倒れていたエースは勢いよく半身を起こし水琴を睨みつけた。
「能力者のくせに海へ飛び込む奴バカで十分だ!もう少しで死ぬところだったじゃねェか、あほか!」
馬鹿に阿呆ときましたか。
さすがにかちんときて水琴も声を張り上げる。