第99章 信頼
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ごぽごぽと沈んでいく。
なんとか這い上がろうとするが、鎖によって手足は全く動かない。
波に煽られ、ごぽりとエースは空気を吐いた。
(……やべ)
意識がだんだんと薄れていく。
もう息がもたない。
まだ何もやり遂げてなどいないのに。
ここまでか、と思った時突如身体が引っ張られた。
ぐんぐんとエースの身体は海面へと近づいていく。
ざばぁ!!と勢いよくエースは海面へ出た。
そのまま甲板まで引っ張り上げられたエースはぜぇぜぇと酸素を取り込む。
「何だ……?」
助かったが、どうして急に鎖が引き上げられたのか分からずエースは倒れ込んだまま霞む視界で甲板を見渡した。
そんなエースの視界に向かいの手摺近くに佇む大柄な影が映り込んだ。
「まだ生きてたか。あの女の命がけの行動も、船長一人救うことは出来たわけだ」
「何……?」
そしてエースは自分から伸びる鎖がマストを通って反対側の甲板の向こうへ落ちているのに気付く。
それだけ気付けば十分だった。
「だがそんな状態で何が出来る!少し命が延びただけで、結局は__?!」
一瞬の間にエースがドレッドの眼前に迫る。
身体を捻り、勢いを付けた鎖の端がドレッドの顔面を強打した。
「ぶはぁっ?!」
「てめェは寝てろ!!」
よろめき、ドレッドは海へと落ちる。
その衝撃で緩んだ鎖から抜け出すと、エースは鎖を握り手摺へと足を掛けた。
力強く蹴り出す。
先程自身の命を奪わんと迫った嵐の海が、再びエースの視界いっぱいに広がった。
うねる風雨に交じり、大きな水音が響いた。