第106章 穏やかな日常と不穏な陰
「今のは昨日の軍のやつと同じヤツらだったな」
「子どもって言ってたけど、もしかしてさっきの子を探してたのかな」
リリィを支える手に力を込め、水琴は鋭い目で気配が去っていった方を見つめるエースの横顔を不安そうに見上げる。
不穏分子と言っていたが、あのような子どもがなぜ軍に追われているのか。
「軍にあんな風に追われるなんてよっぽどだぞ。フランの知り合いなら、様子を見に行った方が__」
深刻にそう話していたデュースがふと言葉を止め懐に手をやる。体のあちこちをまさぐりながら段々と青くなる顔に一同の頭上に疑問符が浮かんだ。
「なんだよいきなり」
「__やられた」
訝しげにエースが尋ねればぽつりとデュースが呟く。
「何が」
「財布だ!財布をスられたんだよ!さっきのガキに!!」
デュースの一言に場が凍りつく。
それもそのはず。彼が持っていたのは我ら海賊団の全財産だったからだ。
この島に着く直前、もう残りも少ないからまとめて管理した方が楽だとデュースの財布に統一していたのだが、それが裏目に出てしまった。
「まじかァ?!」
「あの一瞬でとは、見事な手腕だな」
「変なところで感心しないでダグ!」
「しっかしヤバいねぇこりゃあ」
トウドウが少年が去っていった方を見る。
脇道は細く、少年の姿はもう影も形も見えなかった。
「急いで探すぞ!」
「待ってろ飯ーーーー!!」
「ちょ、ちょっと二人とも探すのはいいけど……助ける、助けるんだよね?!」
軍に追われている様子だったことをすっかり頭から消し去り勢いよく駆け出していったデュースとエースの後を水琴は慌てて追う。その後ろを大人二人とリリィも慌てて追った。後に続こうとしたキールは思い詰めたように考え込むフランに気づき足を止める。
「__事情は知らねぇけど、まずは探そうぜ」
「……そうですね」
キールの促しに、フランもまた先を行く彼らを追うべく走り出した。