第99章 信頼
水琴は手が滑らないよう腕に鎖を巻きつけ踏ん張るが、健闘空しくだんだんと身体は甲板の端へと引っ張られていった。
鎖が容赦なく水琴の腕を締めつけ痛みを与える。みしりと骨がきしむ嫌な音がした。
「まだ足掻くか?もうあの小僧は助からねぇ。逃げる方が利口だぜ?宝を置いてくってんなら、見逃してやるよ」
どうする?と向けられたのは銃口。
この雨だ。その銃は水琴を射抜くだろう。
宝を引き換えに、自分だけ助かるか。
それとも船長に殉じて死ぬか。
与えられた選択肢に水琴は口元を上げる。
「__どっちもごめん」
エースを見捨てるつもりも、死ぬつもりも毛頭ない。
しかし状況から与えられる結果はどちらか一つ。
「じゃあどうするってんだ?」
「こう……するのっ!」
最後の力を振り絞り風を生む。
風の力により水琴の身体は鎖を引っ張ったまま宙を舞った。
鎖がメインマストへ引っかかったのを確認し、水琴はそのまま甲板を挟みエースが沈んだのとは反対の海へ飛び込んだ。
「何だと……?!」
驚嘆の声を上げ、ドレッドは沈んでいく水琴を見下ろす。
能力者が自分から海へ飛び込むなど自殺行為だ。
絶望して自害したか、と頭を上げる。
「!!」
マストに絡まった鎖が、沈む水琴に引っ張られて海へと落ちる。
そうすれば必然的に、片方の端は上がっていく。
「……まさか!」