第99章 信頼
「なんだこれ……っ」
「悪いな、俺はこう見えて頭脳派なんだ」
地に伏せたエースを見下ろしドレッドは笑う。
最後まで手を出さなかったのはエースの戦法を観察するため。
追い詰めたと思っていた壁際も、知らず知らずに誘導されていたのだと遅れてエースは気付いた。
鎖を外そうともがくが強くこの身を縛る鎖はちょっとのことでは緩まない。
そうしている間にドレッドはエースを掴むと乱暴に持ち上げ、甲板の外へと放った。
「!!」
「魚のえさにでもなりやがれ」
曇天の空が見え、海へ落ちる瞬間。
水琴の声が聞こえたような気がした。
***
「これ嵐……?!」
ほとんどの敵を片付け終えた水琴の顔に水滴が降る。
見上げればあっという間に本降りとなった。
勢い良く落ちる雨は水琴から急激に力を奪っていく。
「これ、やばい……!」
早いところこの海から出ようと力を振り絞り敵船へと飛び移る。
そこで見たのは、鎖で自由を奪われたエースと見下ろすドレッドの姿だった。
「魚のえさにでもなりやがれ」
敵の手によって、エースの身体が宙を舞う。
「エース!!」
叫ぶ声も空しく、ばしゃあん!とエースの身体は暗い海へと落ちた。
「仲間はもう終わりだ。見たとこお前は能力者らしいが、この雨じゃ力も出ねぇだろ。尻尾巻いて逃げるか?」
嫌な笑い声が耳につく。それに構うことなく水琴はうるさい金属音を立てエースに引っ張られ落ちようとしている鎖の先端を握った。
一気に重さが水琴の手にかかる。
荒れる海のせいもあり、とてもじゃないが水琴一人で引っ張り上げることは不可能だった。
しかし早く海から上げないと、能力者でなくても死んでしまう。