第99章 信頼
足元の方で風がうねる音が聞こえる。
どうやらうまいことやってくれているらしい。
宝は水琴に任せ、エースは敵船で派手に暴れ回っていた。
どう見ても多勢に無勢の中、器用に立ち回り敵を沈めていく。
しぶとく向かってくるやつらは面倒なので海に放り込んでやった。この大きさの船では這い上がってくるのに時間がかかるだろう。
ある程度落ち着いた頃、ざわりと嫌な風が吹いた。
「何だ……?」
空を見上げれば、いつの間にか黒い雲が空を覆っていた。
ぽつり、とエースの顔に水滴が落ちる。
それは瞬きをしない内に勢いを増し、ザァ___とエースへと降り注いだ。
「ちっ、嵐か」
戦闘に夢中でいつの間にか嵐の中に入ってしまったらしい。
大型の船でもかなり揺れているのだ。あまり長い間この嵐の中にいれば自分達の船はただでは済まないだろう。
今の今まで傍観に徹していたドレッドへと目を向ける。
「あとはお前だけだ」
「やるじゃねェか。だが、そこまでだ」
「減らず口も大概にしやがれ!」
一気に決めようと駆け出す。
拳を振りかぶり殴ろうと突き出せばドレッドは受けようともせず身を捩り避けた。
その後のエースの猛追も巧みな足さばきで寸でのところで避けられてしまう。
まるで暖簾に腕押しのような感覚にエースの気持ちはじりじりと急いていく。
「ちょこまか、逃げんじゃねェよ__!」
ようやく逃げ場のない壁際へ追い詰め、エースはチャンスとばかりに拳を振り上げる。
しかしその瞬間を待っていたかのようにドレッドは不敵な笑みを浮かべると、背後の壁を強く叩いた。
「んなっ?!」
突如ドレッドの背後から複数の鎖が飛び出しエースの身体を絡めとる。
攻撃態勢となっていたエースは避けることが出来ず、あっという間に身体の自由を奪われ甲板に叩きつけられた。