第98章 初めての共闘
「う、ラディッツ様……」
「申し訳ありません。我々の力及ばず……」
「ただの旅行客と侮っていたが、どうやらそこそこやるらしい。しかしこのままでは私の面目も__」
エースの方へ向けていた視線が横に滑る。
ばっちりと目が合った途端、ラディッツはおぉ!!と声を上げた。
「なんと、美しい!」
「はぁ?!」
その見た目とは裏腹に軽々と甲板を蹴りこちらの船へ飛び移ると、戸惑う水琴の手を両手で握りしめる。
熱の籠った視線が降り注ぐのを感じ、水琴はややたじろいだ。
「艶やかな黒髪、白い肌……母上に瓜二つだ!」
マザコンかよ!
思わず出掛けたツッコミも迫る顔に引っ込む。
「ひっ?!」
「気に入った!そなた、私の妻に……ぶはっ?!」
最後まで言い切る前に目の前からラディッツが消える。
ばしゃーん!と良い音と共に波飛沫が上がるのを呆然と見下ろし、水琴は隣に目をやった。
「おれの船に勝手に乗んなこの野郎!」
ラディッツを蹴り落した足をそのままに憤るエースにあちゃあと水琴は天を仰ぐ。
倒れ伏していた男たちはといえば、海に沈んだ主に慌てて飛び起き水面を覗き込んだ。
「ラディッツ様?!」
「馬鹿者!ラディッツ様はカナヅチなんだぞ!」
「え、能力者なの?」
「そんな怪しげなものではないわ、馬鹿者!」
ただのカナヅチか。
数人の部下が海へ飛び込み船へと引き上げる。
ずるりと力無く甲板へ倒れこんだラディッツはよろよろと顔を上げた。
「ぐ……貴様、一度で無く二度までも私の顔を潰すとは……」
「顔は蹴ってねェぞ」
「そういう意味ではないわ!」
覚えていろ!!と言う言葉と共に部下の運転で船は姿を消してしまった。