第94章 抗うもの
「___?」
呼び止められたような気がしてエースは振り向く。
そこには屋台を覗き込む者や祭りに乗じて騒ぐ住人がいるだけで、エースを見る者は誰もいなかった。
それが当たり前だ。だがその当たり前が何故か酷く不自然に感じた。
「なァなァエース!おれあれやりてェ!」
先の屋台を覗いていたルフィの声にエースはルフィの方を向く。
様々な景品が並ぶ射的を指さし騒ぐルフィに使いすぎるなよ、とエースは釘を刺した。
「ちゃんと考えて使わねェと、またアイツに__」
言いかけて、はたと我に返る。
アイツとは、一体誰だろうか。
手の中の袋が重さを主張する。
そもそもこれは誰にもらったのだったっけ。
ダダンから?今まで小遣いなんてもらったことがあっただろうか。
マキノ?料理や服はよく差し入れしてくれたが金銭を受け取ったことはなかった。
ガープも小遣いを置いていくような柄じゃない。
じゃあ誰?
「__なァ」
妙な据わりの悪さを感じながら、エースはルフィへ言葉を投げる。
振り向くルフィと目が合う。その一瞬、エースは続く問いを発するのに躊躇した。
「エース?どうしたんだ?」
「その__」
うまく言葉が出てこない。
言葉にしてしまえば、何かが終わってしまう気がした。
けれど心の隅をざらざらと撫でるような違和感をそのままにもしておけず、エースは口を開いた。