第94章 抗うもの
「掘り出し物がたくさんだよ。見ていかないかい」
流れの露天商らしい。水琴以外にも道行く人に片っ端から声を掛けているようで、多くの人が足を止め露店を覗き込んでいた。
磨かれた天然石やそれを加工した装飾品が中心で、様々な色に煌めくそれらは見ているだけで水琴の心を楽しませる。
どうやら自分も常とは異なる空気に浮かれているらしい。少しくらいならいいかな、と水琴は並ぶ品々を見渡した。
ペンダントは既にあるしイヤリングやブレスレットは邪魔になる。とすると無難に髪留めか。あの櫛はいいかもしれない。
うろうろと目移りする水琴の視界に見たことのある蒼が飛び込んでくる。深い海の底を思わせる澄んだ蒼色はどこかで見たことがあるような気がした。
なんとなく目が離せず水琴はその天然石を見つめる。丹念に磨かれた表面は水琴の顔を小さく映し出していた。
そこに異なる何かが映る。同時に頭に響く声に、ぐらりと足元が揺れた。
「え___」
ここで聞くはずがない声に、水琴は小さく声を漏らす。
蒼が視界いっぱいに広がる。海の底に誘われるように、水琴の意識は沈んでいく。
先程まで水琴が立っていた場所に、露店に目を止めた通行人が入り込みその隙間を埋めた。