第94章 抗うもの
ようやく身体を蝕んでいた熱も落ち着き、水琴はベッドから起きられるようになった。
安静を言い渡されているせいでやることがなく、ぼんやりと窓の近くに座っているとマグラがそろそろと近寄ってきた。
「水琴、これ……」
「これって……?」
「サボからの手紙だ。サボを匿ってたって人が、届けてくれたんだ」
少しよれた封筒を受け取る。丁寧に封を破り、水琴は収められていた便せんを広げた。
水琴へ、という一文からその手紙は始まっていた。
__この手紙を読んでいる時、俺はもう島を出ていると思う。
せっかく誘ってくれたのに、一人で行ってごめんな。だけど、今のままじゃ水琴の手を取れないって思ったんだ。
俺は一人で海に出て、強くなって、海賊になる。
だから、そうしたらまた四人で会おう。
広くて自由な海のどこかで、いつか必ず。
未来の再会を願う少年の想いに滲む涙を堪え、水琴は二枚目をめくる。
__エースには、ルフィを頼んだ。
だから、水琴にはエースを頼みたい。
あいつはたまに自分のことはどうでもいいって思うところがあるから、放っとくと心配なんだ。
大変だろうけど、よろしく頼むよ。
読み終えた手紙をそっと胸に抱く。泣くのはこれで最後にしようと思った。
ぐいと服の袖で涙をぬぐい、水琴は立ち上がる。小屋を出れば、どこまでも晴れ渡った青空が広がっていた。
信じるんだ。
サボの運命は変えられなかった。
だけど、それならば生きている可能性もあることを水琴は思い出していた。
漫画の僅か一コマ。
小さく描かれたドラゴンの乗る船が、サボらしき少年を助けている場面があったことを。
違うかもしれない。
ここは現実だから。漫画のような、そんな展開はなかったかもしれない。
だけど、今は信じる。
そう決めた。